地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2024年5月中央の動き

◎大規模災害時に「補充的な指示」 ― 自治法改正案

政府は3月1日、地方自治法改正案を閣議決定した。第33次地方制度調査会の答申を受けて、大規模災害・感染症まん延時等の国の「補充的な指示」創設を盛り込んだ。同指示は現行の「国と地方団体との関係」とは別に新たな章を設けて「特例」として規定。国は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」への対処方針検討のため地方団体に資料・意見提出を求めることを可能とする。また、国は地方団体に対し「生命等の保護の措置」について必要な指示(補充的な指示)ができるとした。なお、同指示の要件には個別法の規定では想定されていない事態のため特に必要な場合との要件を付けたほか、手続で閣議決定を前提とした。さらに、自治体相互間の応援・職員派遣についても国による応援の要請・指示、職員派遣の斡旋を可能とする。このほか、DX対応では自治体に情報システムの有効利用を求めるとともに、サイバーセキュリティ確保の方針策定を努力義務とする。また、地域住民の生活サービスを提供する団体を市町村長が「指定地域共同活動団体」に指定する制度を創設する。

松本総務相は同日の会見で法案の「補充的な指示」について「分権改革によって設けられた国と地方の関係の一般ルールを尊重した上で、国民の生命等を保護するために国と地方を通じた的確・迅速な対応を必要な限度で可能とするもの」との考えを示した。また、全国知事会は同日、指示が「安易に行使されない旨が担保されるよう事前に適切な協議・調整を行う運用の明確化が図られるよう求める」との意見を発表した。

◎農業者減でも食料安定化へスマート農業 ― 新法案

政府は3月8日、スマート農業技術の活用促進法案を閣議決定した。農業従事者が20年後に現在の4分の1に減少、従来の生産方式では食料の安定供給が見込まれないためスマート農業技術等の開発・普及で生産性の高い食料供給体制を確立する。このため、国は生産方式革新事業活動・開発供給事業の基本方針を策定。両実施計画を作成する農業者等に長期低利融資や税制特例等の支援措置が受けられるようにする。

また、政府は2月27日の閣議で食料・農業・農村基本法改正案、食料供給困難事態対策法案、農地確保・農業振興地域整備法改正案を決めた。基本法改正案は、食料安全保障の確保のほか、環境と調和の取れた食料システムの確立、農業の持続的発展のための生産性向上、農村における地域社会の維持などを盛り込んだ。1999年の制定以降初の改正。供給困難事態対策法案は、政府に食料供給困難事態対策本部を設置し対策実施方針を策定。関係者に対し安定供給確保のため出荷・販売の調整・輸入拡大・生産拡大などを要請する。

◎地方団体にもテレワーク導入を要請 ― 総務省

総務省は3月11日、地方団体でもテレワークを導入するよう都道府県等に通知した。人事院が「国家公務員におけるテレワークの実施ガイドライン」をまとめたことを受けた。同ガイドラインは、「業務運営上の支障がない限り職員の希望に応じてテレワークを可とする」とし、テレワーク勤務中の執務中断と職務専念義務の関係、テレワーク特性を踏まえたマネジメント・長時間労働対策などに言及。総務省通知は、地方でも柔軟な働き方の実現が不可欠で、テレワークはその重要な取組の一つだとし、各団体にテレワークに取り組むよう要請した。なお、総務省調査(2023年10月1日現在)によると、都道府県・指定都市は全団体、市町村は1,035団体(60%)で導入している。

また、総務省消防庁は3月12日、マイナンバーカードを活用して救急業務の迅速化・円滑化を図る実証事業を実施する消防本部に札幌市、川崎市、那覇市など67本部を決定した。同本部では傷病者の観察結果とマイナンバーカード情報(受診歴・薬剤情報等)から傷病者に適した搬送先医療機関を選定する。

◎里帰り先の妊婦等の支援を可能に ― 分権一括法案

政府は3月15日、第14次地方分権一括法案を閣議決定した。2023年の地方提案の対応方針を受けて関係8事項9法律を一括改正する。具体的には、妊産婦の里帰り先と住所地の市町村間での情報提供により効果的な支援を可能とする。また、大規模災害時に建築主事の円滑な審査・検査実施のため国・都道府県等の建築物も指定確認検査機関による審査・検査等を可能とする。このほか、①幼稚園教諭免許状・保育士資格のいずれか一方のみで幼保連携型認定こども園の保育教諭となれる特例期限の延長②管理栄養士国家試験の受験資格としての栄養士免許取得の不要化③生産緑地法に基づく買取申出のあった土地の公有地の拡大推進法に基づく届出の不要化 ― などが盛り込まれた。

一方、内閣府は3月14日に地方分権改革シンポジウムをオンライン開催するとともに、2023年度の地方分権改革推進アワードの受賞団体に北広島市(罹災証明書の交付)、中核市市長会(歳入のコンビニ収納)、さいたま市(介護予防支援)の3団体を決めた。

◎議会へ多様な人材参画で提言 ― 全国都道府県議長会

全国都道府県議会議長会は3月15日、「多様な人材が輝く議会のための17の提言」を発表した。議員選挙の投票率低下や議員のなり手・多様性の不足が進んでいるため、多様な人に議会・議員への関心・意欲を持ってもらう対策として①児童・生徒・学生との意見交換など主権者教育の推進②SNSの活用など広聴・広報の充実による住民とのコミュニケーション確保③児童・乳児同伴の傍聴や委員会のインターネット中継など開かれた議会の実現 ― を提案。このほか、多様な人材が立候補・働きやすい議会とするため、①政党が議員を目指す人に勉強会などの支援②地域の経済団体に立候補の休暇制度創設を要請③議員退職後も生活できる保障制度の創設④オンラインによる委員会開催⑤欠席規定に出産・育児、介護等の例示や保育サービスの導入⑥相談窓口設置や研修実施などハラスメント防止対策の実施 ― などを提言した。

なお、全国町村議会議長会も「町村議会議員のなり手不足対策検討会」を設置し対応策を検討している。

◎ドローン物流の河川上空活用で「考え方」 ― 国交省

国交省は3月15日、「河川上空を活用したドローン物流の考え方」を公表した。物流分野の担い手不足でドローン活用の荷物配送が期待されているため、河川上空を活用したドローン物流の航行や手続などの基本的な考え方を示した。基本的事項で「関係法令・条例の遵守」を挙げ、各自治体の条例一覧を紹介。また、河川上空のドローン飛行は河川法上の許可等は不要だが施設などを設置し排他的・継続的に使用する場合は許可手続が必要で、問題が生じた場合はドローン物流の運行事業者の責任で処理するなどとした。

また、国交省は10月1~2日、「第3回ドローンサミット」を北海道で開催する。ドローンの社会実装に向け自治体の取組を全国発信する。北海道では上士幌町でドローン物流の定期運航、北海道庁では積雪寒冷条件下のドローン活用の可能性検証を行っている。

◎共同処理関係団体が2万2,649団体に増加 ― 総務省

総務省は3月19日、地方団体間の事務の共同処理の状況(2023年7月1日現在)を発表した。共同処理の総件数は9,466件、関係団体は延べ2万2,649団体で、前回調査(21年)より121件、184団体増えた。処理方式では、事務の委託が6,815件(72%)で最も多く、一部事務組合1,392件(15%)、連携協約467件(5%)が続く。連携協約では連携中枢都市圏の形成が348件、機関等の共同設置では介護区分認定審査事務が128件、事務の委託では住民票交付事務が1,338件、一部事務組合ではごみ処理事務が387件でそれぞれ最も多い。

設置主体別では、市町村相互間が7,090件(75%)、都道府県と市町村相互間によるものが2,337件(25%)で、前回調査に比べそれぞれ35件、82件増えた。また、一部事務組合の構成団体数は2団体が493組合(35%)、3団体が338組合(24%)、4団体が180組合(13%)など。広域連合は3団体が17広域連合(15%)、10~19団体が16広域連合(14%)、20~29団体が14広域連合(12%)、30~39団体が13広域連合(11%)などとなっている。

◎気候変動・防災で自治体向けマニュアル ― 環境省

環境省は3月21日、「できることから始める『気候変動×防災』実践マニュアル」を発表した。近年、想定を超える気象災害が各地で頻発、甚大な被害をもたらしているため、自治体向けに先進事例や基本的な考え方・取組を進める上でのポイントを整理した。災害復興では「原形復旧」にとらわれず気候変動への適応を進める「適応復興」が必要だと指摘。そのうえで、「基礎編」で、「気候変動×防災」に取り組むために必要な基礎知識や考え方を整理。「実装編」では気候変動の影響や適応策の検討、関連計画への情報の追加、進捗状況の確認などを解説。「体制構築編」では気候変動適応や防災管轄部局間・外部関係者との連携の体制構築を進める上での留意事項などを紹介した。なお、地震・津波・火山噴火は対象外としている。

また、気象庁は3月12日、防災気象情報に関する検討会を開催、「最終取りまとめ骨子」を提示した。防災気象情報の役割・位置付けを「対応や行動が必要な状況であることを伝える簡素な情報」としたうえで、防災気象情報の名称、防災気象情報の一層の活用に向けた取組などを審議。6月にも最終報告を公表する。

◎コロナ対策費減で決算規模減少 ― 2024年版地財白書

総務省は3月26日、2024年版地方財政白書を公表した。22年度の決算規模は、歳入121兆9,452億円、歳出117兆3,557億円で、前年度より各4.9%減となった。20年度以降大幅に増加していた新型コロナ対策関連経費が減少に転じたことを反映した。また、実質収支は3兆711億円の黒字だが、経常収支比率は経常一般財源等の減により前年度比4.3ポイント上昇の92.4%となった。実質公債費比率は前年度と同率の7.6%。22年度末の地方債現在高は141兆7,384億円、前年度比2.0%減となった。なお、白書は最近の地方財政をめぐる課題に①こども・子育て政策の強化②物価高への対応③地域の脱炭素化の推進 ― などを挙げた。

また、総務省は3月22日、2023年度の特別交付税交付額を発表した。総額は前年度比1.7%増の1兆1,322億円で、うち道府県分が1,694億円(前年度比6.8%増)、市町村分が9,628億円(同0.9%増)。算定項目別では、災害関連経費が同349億円(61.1%)増の920億円に増えた一方、除排雪経費は同215億円(32.9%)減の439億円、原油価格高騰対策も同42億円(40.4%)減の62億円に減った。災害関連経費では能登半島地震関連で石川県が133億円と急増した。なお、ふるさと納税で多額の寄付を受けた団体に対する減額措置は北海道白糠町と泉佐野市に適用した。

井田 正夫 (月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)