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2021年7月コラム

スコットランド議会選挙

 英国では毎年5月最初の木曜日に統一地方選挙が行われる。今年は5月6日にスコットランド議会のほか、ウェールズ議会、ロンドン市長・市議会、イングランドの自治体議会などの選挙が実施された。スコットランド議会選挙は、スコットランド国民党SNP党首で、この6年半スコットランド政府首相をつとめるN.スタージョンの言葉を借りれば、同党が「破格で歴史的な成果」を収める結果に終わった。
 最大の争点となったのは、スコットランドの英国からの独立を問う2度目のレファレンダムindyref 2を実施し、独立を実現したあかつきにはEUに加盟すべしとするSNPの主張がどこまで支持されるか、それと関連して、下院議員選挙でもおおむね好調が続く同党がどこまで議席数を伸ばせるかであった。というのも、スコットランドの有権者は、スコットランドの独立を問う2014年の1度目のレファレンダムでは55.3%の多数で英国残留の意思を、英国のEUからの離脱=ブレクシットを問う2016年のレファレンダムでは62.0%の多数でEU残留の意思を表明した。しかし、2020年1月末をもって英国はついにブレクシットに踏み切ったので、英国残留とEU残留を論理矛盾なく、同時に望むことはいまでは不可能である。そのためスコットランド独立とEU加盟を組み合わせたSNP年来の主張が、とりわけ親EU派の有権者にとってリアリティを増しているからである。
 選挙結果は、相対得票率で見るとSNPが次点の保守党のほぼ2倍に当たる44.0%を獲得し、完勝といっていいが、議席数で見るとSNPが獲得したのは全129議席のうち64議席と過半数に1議席足りず、圧勝とまではいえない。そうした結果を生む要因は、英国でアディショナルメンバーシステムAMSと呼ばれ、スコットランド議会選挙とウェールズ議会選挙で導入されている小選挙区制と比例代表制を併用した特異なしくみの選挙制度にある。
 スコットランド議会選挙の例でいうと、129議席のうち73議席はその数だけある小選挙区から選出される。その一方、残りの56議席は平均して9つの小選挙区からなる8つの比例ブロックごとに、拘束名簿式比例代表制で7議席ずつが選出される。AMSの特徴は、この小選挙区制と比例代表制を独特なかたちで組み合わせて使う計算式にある。
 つまり通常の比例代表制ドント方式だと、各政党の得票数を1+獲得議席数(0から始まる)、要するに自然数で割り戻し、得られた解の大きい政党から順に議席を割り当て、その作業を全議席が埋まるまで続ける。それに対して変形ドント方式のAMSでは比例ブロックごとに、各政党の得票数を同じブロック内の小選挙区で各政党が得た議席数+1+獲得議席数(0から始まる)で割り戻すやり方をする。この方式にアディショナルという言葉を使うのは、まず小選挙区制で選ばれる議席を決め、つぎにその結果を踏まえて比例代表制で選ばれる議席を付け加え、こうして各政党ごとの議席を確定するからである。
 AMSでは政党が小選挙区制で勝てば勝つほど、比例代表制による議席確保が期待できなくなる。実際、今回選挙でSNPは小選挙区制で62議席(占有率84.9%)を獲得するまさに「破格で歴史的な」圧勝を収めたが、それゆえに比例代表制では2議席(同3.6%)しか得られなかった。もともと労働党の金城湯池だったスコットランドでT.ブレア政権時にAMSの制度を導入したのは、労働党以外の弱小政党に対する政治的な配慮が働いたためである。SNPもその恩恵を受けた政党の1つにほかならない。だが、それから22年を経てスコットランド最強の政党になったSNPにとって、このAMSが政策を強力に実現するうえでの制約要因になっているのは歴史の皮肉ともいえる。こうした英国とくにスコットランドの選挙制度をめぐる政治学については、稿をあらためて考察してみたいと思う(本稿で情報源としておもに依拠したのは、https://www.bbc.com/news/ukの関連ニュース、House of Commons(2021) Scottish Parliament Elections: 2021、McAngus, C.(2016) “How Scotland votes", in D. McTavish(ed.) Politics in Scotland, Routledgeなどである。個別論点ごとに典拠を示すのは省略した)。

 

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授)

 

 

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