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2019年6月コラム

英国地方選挙の争点

 5月2日(木)に英国のイングランド(一部を除く)と北アイルランドで統一地方選挙が実施された。イングランドでは地方議会総議席数のおよそ半数の8,425議席が争われ、開票の結果、改選前と比べて保守党が1,269議席減、労働党が63議席減、英国独立党Ukipが36議席減となったのに対し、リブデムLiberal Democratsは676議席増、グリーンは185議席増と明暗が大きく分かれた。とくにメイ首相率いる保守党については、メイジャー首相率いた同党が1995年に2,000以上の議席を失って以来、この24年間で最大の惨敗だと各紙により報じられた。その一方、選挙前予測では最大野党の労働党が善戦すると見られていたが、ふたを開けてみれば、改選前議席数の約3%の議席を失う結果に終わった。
 事実上、最大の争点となったのは英国のEU離脱−ブレグジットだったといっていい。それと関連して選挙結果をどう見るかである。英国内でブレグジットをめぐる政治的立場は、EU残留を望むリメイナーremainerと離脱を望むブレグジターBrexiter/ブレグジティアーBrexiteerまたはリーバーleaverに大きく分かれ、さらに後者は、EUと交渉して軟着陸の道を探るソフト派と合意なしno dealで即離脱をめざすハード派に大別される。リブデムやグリーンがはっきりとリメイナーの立場を打ち出し、2016年6月国民投票の結果を覆すために再投票をと主張しているのに対して、保守党はハード派ブレグジターの下院議員を多く抱え、そのうち大物の何人かが6月7日に党首を辞任するメイの後がまをねらう状況にある。そこからすると今回の結果は、リメイナー支持がいまの世論の多数派であることを示していると読み取れそうに見える。が、ことはそう単純ではない。5月23日(木)に実施された欧州議会選挙では、もと英国独立党党首のファラージ率いるその名もブレグジット党Brexit Partyが国内総議席数の約4割を獲得する圧勝を収めたからである。
 苦戦が予想された保守党は4月8日に地方選挙用キャンペインビデオを公開し、一方で未回収の散乱したごみ袋、くぼんでひび割れたアスファルト道路、他方で着々と進む住宅建設の画像を交えながら、自治体の舵を取るのが労働党やリブデムの場合と保守党の場合とでどれほど違うかを語りかけた。終盤は党首メイ自身が登場し「保守党ならもっと安い地方税でもっとよいサービスを提供します。5月2日は保守党へ」と訴えている(https://www.youtube.com/watch?time_continue=5&v=BoxnsFDU4pw)。労働党系の雑誌『ニュー・ステーツマン』オンライン版には即日でこのビデオに関する論評記事が掲載された。同記事は、保守党が示すアジェンダは「ブレグジットではなくてごみ回収(bins, not Brexit)」だと特徴づけたうえ、欧州議会選挙が3週間後に迫るなかでブレグジットを外す争点隠しが不可能なだけでなく、おすすめできない戦術でもあると皮肉っている。
 国政上の争点を地方選挙に持ち込むと、それは筋違いだとする正論に違いない議論が日本では必ずどこからか聞こえてくる。だが国政選挙の谷間にあって、地方選挙が事実上、国政に対する評価を有権者が下すいわば中間選挙の意味を持つのは、英国ではごく自然なことと受け止められているように思える。それはまた、国政と地方政治が政党を通じて直接つながる英国政治の制度と実際の特質に密接に結びついている。イングランドとウェールズ(ともに一部を除く)の地方議会選挙は下院選挙と同じく定数1の小選挙区で、主要候補者は国政と同じ政党の看板を掲げて一騎打ちで戦うのが通常である。そこからわかるように、日本で語られる正論が無条件に正論であるわけではない。そのことが持つ意味をあらためて真剣に考えてみる必要がある。

 

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授、エジンバラ在住)

 

 

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