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2018年6月コラム

地方自治体の追加的公共サービスと所得再分配

 政府は2018年5月21日に、2040年度における医療や介護、保育など社会保障費用の推計をようやく公表した。今より1.6倍の190兆円となる見込みだ(原データは国立社会保障人口問題研究所)。2018年度の推計決算ベースでは、この社会保障費用は121.3兆円。内訳は年金が56.7兆円、医療が39.2兆円、介護に10.7兆円、子ども手当や保育所などに7.9兆円、その他に6.7兆円となっている。
 団塊ジュニアが高齢者入りするので高齢者数はほぼピークに達する。経済成長率は2%を維持するとし、それに余剰病床の削減、高齢者の負担適正化、地域包括ケアの推進による在宅ケアへの転換、健康寿命の延伸などがうまくいくとの見通しのもとでの推計だ。年金は18年の1.3倍、医療費は1.7倍、介護費は2.4倍。税負担は80兆円前後と1.7倍、保険料は106兆円と1.5倍に膨らむ。政治の役割はこの負担増をどう受けてもらえるか、積極的に国民に訴えることだが、そこから逃げる姿勢が目立つ。
 私たちはできることをできる範囲で進めなければならないが、注目したいのは自治体の単独事業の役割である。福祉や教育などの分野で、自治体の単独事業が、実際には所得再分配機能を担っているのだが、それが統計上はうまく反映されていないことが最近指摘されている。この所得再分配機能には、世代間と所得階層間の2つがある。
 社会保障費用統計は、国際比較の観点からもOECDやILO基準によって策定されてきた。その際に、国の各省の統計を基礎にしたのは当然だが、そのために地方の単独事業は粗い推計にとどめてきたようだ。ところが、2000年代に入って、分権改革で地方への財源を含めた事業移譲が進んだため、福祉や教育の分野で地方単独事業が拡大したのだが、それに対応しきれなくなったらしいのである。家族や子育て支援分野を中心に4兆円程度の計上漏れが指摘されているという。
 このような事業は主に次のような事業ではないかと思われる。「要保護準要保護児童生徒就学援助」、「子ども医療費無料化支援」、「高校授業料無料化」、「要保護世帯の子ども大学進学支援」など。
 要保護児童生徒就学援助は、文科省の2016年11月実施の調査では、全国1,767市町村の149万人が対象となっている。人数は2011年度の161万人(15.96%)がピークでやや減少してきている。平均の就学援助率は15.43%。学用品、通学用品費、体育実技用具、修学旅行費などを支給している。一人当たり予算単価7万円とすると、1,043億円となる。この財源手当は、地方交付税の基準財政需要額に算定されることで行われている。ここで子どものいない高齢者世代から子持ち世代への所得再分配が行われていると見ることができる。ただ要保護準要保護児童生徒就学支援は、生活保護世帯とそれと1.3倍程度までの低所得世帯への支援となっているので、高所得者から低所得者への再分配の機能も併せ持つ。
 児童生徒への医療費支援は、所得制限を設けていない市町村も多く、より世代間再分配の機能が強いといえる。ちなみに、人口31万人の三重県四日市市では、中学卒業まで、所得制限なしで入院、通院の自己負担分を助成しているが、2018年度予算では47万5千件、9億5千4百万円(うち県支出金3億9千万円)としている。
 なお、要保護児童生徒就学支援では、2005年の分権改革で、準要保護就学支援が国庫補助事業から自治事務になり、市町村の一般財源事業となったことが、事業の縮小につながったとの指摘もある。このため、所得再分配機能に制約が生まれた可能性もある。この間の支援児童生徒数と支援率が減少に転じていることも検討が必要である。基礎には、子どもの減少が進んでいることがあるにしても、税財源の十分な移譲がない分権化の影響とみる必要もあるかもしれないのである。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)

 

 

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