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2014年3月コラム

いらざること、余計なお世話

辻山 幸宣

 地方自治に関する総合年表が欲しいと感じることがある。かつては「地方自治年鑑」(財団法人自治研修協会・地方自治研究資料センター編)が発行されており、そこには年間重要日誌のほか、首長選挙結果、地方行財政の動き、各自治体の記録と成立した主要法律、調査会などの答申その他統計資料が収録されていた。これも2000年版を最後に発行されていない。自治総研の創立40周年記念事業で自治年表を手がけようかというプランがあり、少し年表の作り方について考えを巡らせてみた。
 地方自治年表なのだから、自治法制についての動きも重点になると考え、近年の地方自治法の改正を追ってみた。2012年には地方議会の会期制(通年議会)、政務活動費、再議・専決処分、国等による違法確認訴訟などを内容とする改正、11年には議員定数上限の撤廃、行政機関の共同設置、全部事務組合等の廃止、自治法上の義務づけの廃止等を内容とする改正、08年には議会活動の範囲、議員報酬規定についての改正が行われ、06年には副市町村長の設置、吏員の廃止、議員の常任委員会への所属制限廃止、委員会の議案提出権創設などの改正が行われた。2000年以降ではこのほかに02年・03年・04年と連続して改正がなされている。こんなにも毎年のように、地方自治に関する制度課題が発生するものだろうか。
 年表を作成するに当たってこの毎年のように行われる改正をいちいち掲げていく意味を吟味しなくてはならないと考えた。すべての改正が地方自治の充実に不可欠なものかどうか、当該改正が地方自治の歴史に持ち得た意味はなにかを考えて取捨選択することになるのかどうか。「いらざること」「余計なお世話」に属する改正まで載せることでいいか。自治法改正を落として地方自治年表になるのか、悩みは尽きない。そうこうしているうちにこの国会(第186回)に提出予定の地方自治法改正案を入手した。今回の改正の概要は、指定都市の行政区に代えて「総合区」を設置できること、指定都市・都道府県調整会議を設置して「二重行政」の解消をめざす、特例市と中核市の制度統合、自治体間「連携協約」に基づいて圏域行政を展開することなどである。
 この改正のもとになっているのは第30次地方制度調査会の「大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申」(2013年6月)であるが、柱のひとつである「指定都市制度の見直し」は、「大阪都構想」に対する調査会の姿勢を示すものといってよい。すなわち、「大阪都構想」で強調された「区の自治権強化」と「二重行政の解消」への回答として、上でみた「総合区」「指定都市・都道府県調整会議」が提示されている。「総合区」は「行政の円滑な運営を確保するため必要があると認めるとき」は、「条例で」当該区に代えて設けることができるというもので、議会の同意を得た総合区長を置き、総合区の区域のまちづくり、区民相互間の交流促進事業、その他条例で定める事務を執行すると規定する(第252条の20の2)。
 区ごとの特色ある地域行政が可能になるような書きぶりだが、はたしてこのような「区づくり」は法改正があって初めて可能なのだろうか。大都市の都市内分権はこれまでも議論になっており、一部の大都市では区民会議の設置、区への権限移譲や特色ある区づくり予算など、さまざまに工夫を凝らして改革を行っている。このようななか、国の法律で、総合区を置けますよ、区長は議会の同意で市長が選任し、解職もできますよ、区長はこれこれの事務を執行しますと詳細に規定するのは「余計なお世話」、「いらざること」ではないか。仮に現行法が区長を一般職としていることが壁になるなら、この規定を削除することで済むのではないか。そうしたら各都市が「区長設置条例」を設けて特別職の選任規定を置き、住民の罷免請求権を認めるもよし、わざわざ「総合区」としなくとも、区及び区長権限に関する条例で区への権限移譲を進めればよい。分権時代における政令指定都市改革はそのように構想されるべきではないか。そのほか、今次改正には同様の「いらざること」「余計なお世話」条文が多い。自治体自身が身もだえするようにして新しい仕組みを生みだしていくのでなければ、すぐに形骸化するのは目に見えている。

 

(つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長)

 

 

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