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2013年7月コラム

合点がいかない道州制論議

 政権党において「道州制推進基本法案」の取りまとめがおこなわれているようである。早ければ、今月下旬に閉会予定の通常国会に間に合わせる動きとも伝えられる。しかし、何をそんなに急ぐのか、急がなければならないのか。合点がいかない動きである。それに加えて、基本法案の中身にも大いに疑問がある。

 7年前の第28次地制調による「道州制答申」でも、広範な国民的議論の必要性が指摘されていた。けれども、それから間もなく小泉内閣で提出され、第1次安倍内閣で成立となった「道州制特区推進法」(道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律)の制定によっても、また、その第1次安倍内閣で設置された道州制ビジョン懇談会の審議、およびそれと並行して企てられた全国各地での相次ぐ「道州制シンポジウム」の開催によっても、さほど国民的議論が喚起されたようには感じ取れなかった。ところが、3年あまりの民主党政権の時代を経て、またぞろ道州制論議である。何があったのか。いぶかっているのは私だけではあるまい。

 思い当たるのは、昨年暮れの総選挙における日本維新の会の進出である。地域政党から出発した同党の国政進出に先立って、昨年夏には、議員立法による大都市区域特別区設置法が、それこそあれよあれよという間に成立してしまった。橋下大阪市長が提唱する「大阪都構想」そのものではないにせよ、それをうけて、なんと5党7会派が共同で「総選挙を目前にした政治的擦りより」をおこなった結果である。伝えられる道州制推進基本法案についても同じことが起こるのではないか。そんな観測も現におこなわれている。

 今度の政権党の道州制推進基本法案は、その骨子案(3月19日)を見るかぎり、基本的なところで首をかしげざるをえない。その前文や「基本理念」には、あたかも「基礎自治体優先の原則」に即したかのような考え方の記載も見受けられるのだが、念頭に置かれている「基礎自治体」がどんな自治体のことであるのか、とんと分からない。いったいが、言うところの「自己完結型の地方公共団体」とか「従来の都道府県及び市町村の権限を併せ持ち……地域完結性を有する主体」としての存立が可能な基礎自治体とやらが、現実にどれだけあるというのだろうか。

 今度の基本法案は、どうやら「道州制国民会議」設置法案としての性格を色濃く帯びているようである。しかし、その手続きにかんして何より疑問に感ずるのは、同会議による3年以内の答申を得て、「当該答申に基づき、2年を目途に必要な法制の整備を実施しなければならない」とされている点である。まるで、国民的議論を喚起しようにもラチがあかないから、道州制案の最重要ポイントである「都の在り方」も含めて、まるごと「国民会議」の審議にゆだね、その答申をもって一気呵成に決めてしまおうと言わんばかりである。

  第28次地制調の「道州制答申」にならって、今度の構想でも、現存する都道府県の廃止を前提にし、それに代えて自治体としての道または州を設置するとしている。しかし、そんなに簡単に現存都道府県を廃止できるものであろうか。都道府県は憲法上に明文規定がないものの、明らかに「憲法上の地方公共団体」である。それに対して、新たに設置される道・州は、東京オリンピック前年の最高裁判決に照らすかぎり、その要件を充たしてはいない。それだけに、仮に道州制に踏み切るにしても、それへの移行手続きにおいて周到な配慮がなされなければならないはずのものである。実のところ、これこそが、上記の「道州制答申」でも曖昧にされてしまった基本的な論点のひとつなのである。

いまむら つなお 山梨学院大学教授)

 

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