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2012年2月コラム

「概要版」を問う

辻山 幸宣

 唐突に「概要版」を問題にしようと思う。「概要版」とは、たとえば地方制度調査会など政府審議会の答申・勧告・意見の「あらまし」「大要」「大略」「概略」(『広辞苑』)を文書にしたものである。これは、本体のものを大きく逸脱してはならないという性質のものである。だが、どれほどの逸脱までが許されるのかという客観的な基準は示しようもない。数十頁あるものをわずか一枚の「概要版」に示すこともある。労を惜しんで「概要版」に頼ることに問題があるのかもしれないが、ときに「エー」というようなものに出くわすことがある。そのひとつが、「地方分権推進委員会の最終報告 ― 分権型社会の創造:その道筋」の「概要版」であった。この最終報告はその名の通り地方分権推進委員会の6年間にわたる活動の最後の勧告であると同時に、「分権改革の更なる飛躍を期待し、(中略)残された諸課題について委員会の所見を」述べたものである。その後、地方分権改革推進会議、地方分権改革推進委員会と似たような名の地方分権審議機関が置かれ、その任務の決定に当たっていつも参照され、検討事項の精査の際に意識されてきた。とりわけ、「最終報告」の第4章「分権改革の更なる飛躍を展望して」は、自らの活動を「未完の分権改革」と位置づけ、やり残した改革課題として6項目を提示したのであった。私はこの文書を地方分権推進委員会の「遺言」と呼ぶことにしている。そしてそれが、その後の分権改革議論の処方箋ということになったのである。

 さて、この「最終報告」にも当然「概要版」は作られた。「地方分権推進委員会最終報告の概要」と名付けられた文書は、「最終報告書」が諸井委員長から小泉内閣総理大臣(当時)に提出された日から4日後の2001年6月18日の日付で首相官邸ホームページに掲げられた。それを参照すると、第4章の一部に以下のような疑問点が散見された。

 まず、報告本文から見ていこう。そこには6項目の残された課題が記述されている。数項目について表現の違いがみられるが、第V項目だけは看過できないほどに表現が変えられている。

 第V項目は「地方分権や市町村の合併の推進を踏まえた新たな地方自治の仕組みに関する検討」であり、次のような文章が付いていた。それを「概要版」では項目だけを右のように掲げているのである。

V 地方分権や市町村の合併の推進を踏まえた新たな地方自治の仕組みに関する検討

  「第3に、平成17年3月までの時限法である市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年法律第6号)に基づいて進められている市町村合併の帰趨を慎重に見極めながら、道州制論、連邦制論、廃県置藩論など、現行の都道府県と市区町村の2層の地方公共団体からなる現行制度を改める観点から各方面においてなされている新たな地方自治制度に関する様々な提言の当否について、改めて検討を深めることである。― 後略 ―」

「V 道州制論、連邦制論などの新たな地方自治制度の仕組みの検討」

 あきらかに、要旨の読み込み過ぎと思われる。はたしてこの概要化は誰の責任において行われているのだろうか。これは、地方分権推進委員会が発行している「地方分権推進委員会の活動の全て」も同様である。そこで、公刊されている地方自治制度研究会編集の『地方分権推進ハンドブック』(加除式、ぎょうせい)を開いてみると、同「最終報告の概要」が地方分権推進委員会の名で載っている。そこには「3 地方分権や市町村の合併の推進を踏まえた新たな地方自治の仕組みに関する検討」とある。あまりにも不可解なこの問題を道州制に関するある種の意図が働いたのではないかとみるのは勘ぐり過ぎだろうか。

(つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長)

 

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