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2010年12月のコラム

自治体の統治構造のあり方の検討を

 これまで地方分権改革は、国と自治体の基本的関係の見直しを中心にして進められてきたが、同時に自治体組織の改革も行われてきた。その一つが議会の改革であり、その中心的課題は議会の権能の強化と活性化にあった。しかし、議会改革と関連してかつてから検討課題とされながら、いまだ十分検討の成果を得ていないテーマとして、長と議会の「二元的代表制」を中心に構成されてきた自治体の統治構造そのもののあり方がある。ところがここへきて議会改革の焦点は、にわかに長と議会の基本的関係や住民投票制度など住民自治拡充の具体化のための制度の検討に向けられてきた。住民・長・議会の三者によって構成されている自治体の統治構造の本質的なあり方の検討である。

 その契機の一つとなっているのは先の分権改革によって「義務を課し、又は権利を制限するには、……条例によらなければならない。」(自治法14条2項)こととなったことである。さらに現在法案化が検討されている国の法令による「義務付け・枠づけ」の見直しにおいて、「従う基準」であれ、「標準」であれ、あるいは「参酌すべき基準」であれ、それを自治体が定める場合は条例によることが構想されていることがある。自治立法の中心が条例にシフトして長の定める規則の比重は相対的に低下し、条例・規則「二元的」自治立法の構造は大きく変動しつつあることになる。その結果、議会の「行政機関的」役割の比重が低下し「立法機関的」役割がますます増大することになる。

 首長と議員を別々に公選する「二元代表制」を採用しているわが国の地方自治制度においては、首長と議会がそれぞれの役割を分担、尊重、牽制しながら自治体の統治に責任を負うことが想定されている。しかし、両者の意向が常に一致するとは限らない。議会の立法的権限の拡大に伴って両者の政策的不一致が惹起され両者が対立する場面は益々多くなると思われる。その解決策が長の再議制度や専決処分制度であり、最終的には「議会による長の不信任議決」と「長による議会解散」(自治法178条)が制度化されているのである。さらに住民による議会解散、長・議員等の解職請求制度も配置されている。

 しかし、最近マスコミで話題となっている鹿児島県阿久根市においては、このような制度によっても問題の解決に至らなかった。議会との意見の不一致や議会の対応に業をにやした市長が、法定要件に疑義のあるような専決処分を行い、また、議会側の要請にもかかわらず長は議会開会にも応じなかった。議会が制定した条例について再議にも付さないどころか公布もしなかったというのである。さらに議会の不信任議決、その対抗手段としてなされた市長による議会解散、その後の出直し市議選では反市長派が多数を占め選挙後の再度の不信任議決によって市長は失職したが、その後の市長選挙で前市長が再選され、議会内の政治勢力、民意のねじれなどによって両者の対立構造は解消されなかったからである。

 他方、長と議会の政策的対立(市税率の引き下げ)の解決策として議会解散請求が行われたのが名古屋市の例であり、人口約226万人の大都市において今回46万人を超える署名を集め現在その成否の審査が行われている。必要署名数の多さからこれまで都道府県や大都市において解散・解職請求が成立した例はないとされている。名古屋市の例は、市長が支援団体等を主導して政治力を駆使した特殊な例であるとされている。

 そこでこのような事態を解決するためににわかに期待が高まってきたのが住民の意思を直接反映できる住民投票制度の導入や現行の議会解散、解職請求制度の見直しである。

 政府は、専決処分については一定の制限を加えるなどその乱用防止への対策、議会の会期制を事実上廃止して常時開催できるような制度改正を行うとともに(日経11月24日夕刊)、直接請求制度に関して大都市における必要署名数や署名収集期間(都道府県が2か月、市町村1か月)の見直しや住民投票制度導入も検討しつつある(地方行財政検討会議。讀賣10月14日朝刊)。たしかに首長と議会の対立の解決策としても住民の政治参加の拡大の観点からも住民投票制度の導入の検討は不可避であろう。

 しかし、同時に、より根本的な自治体の統治構造のあり方の検討が必要であると思われる。憲法の定める住民による長と議会の議員の公選制を維持しながら、憲法が許容する「二元代表制」とは何か、議会と首長の役割、相互の合意形成・チェックの仕組みなどを検討する必要があるからである。とりわけ限定的な議会の権能(自治法96条)について整理し、条例によって追加できる事項から法定受託事務を除外した部分を削除するとともに、住民投票制度を導入して条例で追加すべき事項、さらには長と議会の対立する政策について、住民の意向を反映させて解決する制度のあり方など、自治体の統治構造の検討をすべきであろう。その際、基本を自治法で定め(地方自治法は「自治基本法」であるべき)自治体がその規模に応じて制度設計ができるような統治構造のあり方を検討すべきであると考える。



さとう ひでたけ 早稲田大学名誉教授)

 

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