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2010年7月コラム

「義務付け・枠付け」見直しは、「立法的関与」改革の一里塚

 先の分権改革において積み残され次の分権改革の大きな課題となっていたのは「立法的関与」の改革であった。それ故、地方分権改革推進委員会が、この「立法的関与」について「義務付け・枠付け」の見直し問題として位置付け、最重要改革課題として検討してきたことは大きく評価できる。しかし、検討対象が自治事務に限定されていること、自治事務であっても除外されているものがあること、改革対象となった自治事務のうち具体的に講ずべき措置を勧告したものは重点改革事項の3つの事項(@施設、公物の設置管理基準、A協議、同意、許可・認可・承認、B計画策定及び手続に係わるもの)に絞っていることなどから、同委員会も認識しているところであったとしても、今回の見直しの限界は否定し得ない。特に国が法定した自治事務・法定受託事務という掌(たなごころ)の中での改革に陥り抜本的見直しにはほど遠いからである。しかし、自治事務とされながらもなお多くの法令上の国の関与を受けていることや、膨大な検証の作業量等を考えれば、手順としてまず既存の自治事務から見直すことはやむを得ない。その限りで同委員会が、既存の自治事務に対する「立法的関与」の見直しを第3次勧告において提言し、対象となった877条項中、全国知事会及び全国市長会からの要望を中心とした121条項について、政府がまず「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」等として第174回通常国会に上程したことの意義は大きい(現在継続審議法案となっている)。

 さらに、6月22日「地域主権戦略大綱」が閣議決定され、依然自治事務を対象としたものではあるが、「義務付け・枠付け」の見直しが引き続き進められることとなったことから、この「立法的関与」改革問題はなお一層前進するものと思われる。

 しかし、「立法的関与」問題の改革を国の掌(たなごころ)の中で行うことなく、地方自治保障の観点に立って進めるためには、まず、「立法的関与」は、事務論に関連して言えば自治事務・法定受託事務の区分そのものとして登場することを忘れてはならない。それ故、何をもって自治事務というかがまず問われるべきとの指摘は当然である(辻山幸宣・本誌2010年4月号巻頭言)。だが、自治事務か否かは、自治の基本に係わる事項を除けば、必ずしも画一的・客観的に確定し得るものではない。

 一方に本質的に自治事務といえるものがあり、他方に本質的に国の事務といえるものもあり得る。しかし、その中間にはどちらとも言い得るグレーゾーンが存在するからである。そして、このグレーゾーンの事務もひとたび国が法定受託事務として法定すれば、自治事務は否定されることとなる。いわゆる「立法裁量」である。そこでこの「立法裁量」を統制するために国の法令といえども侵すことのできない自治の本質的領域として「地方自治の本旨」という楔が打ち込まれているのである。しかし、「地方自治の本旨」は、「住民自治」と「団体自治」によって構成されるとする「統治主体」と「意思形成」の仕組み、すなわち自治体の「器(うつわ)」の保障(団体自治=「統治主体」)と意思形成(住民自治)の基本を述べているに過ぎず、何が自治事務となるか、すなわち「器の中身」を確定し得る概念とはなっていない。そこでかつてからシビル・ミニマム論や人権論を駆使した「器の中身」の形成の努力が行われてきたのである。しかし、それも必ずしも十分成功してきたとは言い得ない。法的概念(「地方自治の本旨」、「立法裁量統制の法理」、「事務論」など)の精緻化の不十分さに加えて、それを具体化する政治システムの欠如が決定的であったと思う。「自治事務」という「相対的概念」を地方自治保障の観点から豊かにして行くには、それを具体化する政治過程を保障する仕組みが必要だからである。

一方で自治体は住民自治を背景にして住民生活に不可欠な諸政策を自治事務として追求して行く努力を怠ってはならないが、他方でそれを汲み上げ具体化できる仕組みを構築する必要性がある。住民の意思を国家意思である法令に反映させる仕組みである。換言すれば、住民自治と国家意思(中央官庁の意思ではなく政府の意思。分権改革における「政治主導」)との結節点の制度化である。現在継続審議となっている「国と地方の協議の場」の法制度化の重要さは、まさにそこにある。しかし、この「協議の場」が、十分機能するか否かの前提は、自治体の国に対する政治的対等性をいかに確立できるかである。そこで筆者は、かつてから次の改革課題は自治体を「統治主体」として位置付けた上での改革の必要性を指摘し、その憲法規範的可能性を論じてきたのである(佐藤英善編著『新地方自治の思想』2002年9月、3頁以下)。その理論問題の中心は、自治体をいかに「統治主体」として位置付け得るかであり、その上で国の自治体に対する「立法的関与」のあり方をどう構想するかであると考えてきた。国・自治体の役割、両者の基本的関係、権限・財源配分(事務論、財源論)、国の自治体への関与のあり方等、いずれも最終的には「立法的関与」問題に収斂されるからである。

さとう ひでたけ  早稲田大学名誉教授)

 

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