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2008年1月のコラム

判決、法整備を求め異例の言及

−非常勤職員の「雇用不安定」問題−

 東京高裁は、昨年11月28日、自治体における非常勤職員の地位確認訴訟控訴審判決の中で、非常勤職員の雇用不安定問題について法整備を求める異例ともいえる言及をした。現在自治体において、非常勤職員の不安定な雇用状態が放置されており、現行法制度の下での救済には限界があるとして、「実質面に即した法整備が必要」との警鐘を鳴らしたからである。同判決は、また、自治体における非常勤職員の法令の適用関係やその法的性質についても判示しており、注目すべき判決である。

 事案は、東京都中野区の非常勤保育士4人が、1年の期間で反復継続(9回から11回)して任命されてきた雇用(任用)を打ち切るのは違法だとして、区を相手に、地位確認などを求めた訴訟である。争点は3点あった。@期限付き任用の法的性質(法令の適用関係)は、雇用契約かそれとも行政処分か、A再任用拒否が、解雇法理ないし解雇権濫用法理の類推適用により無効となるか、B再任用拒否により再任用されるとの期待権を違法に侵害したことになるか、である。

 これまで非常勤職員の任用の法的性質や法令の適用関係については見解が分かれていた。私法上の雇用契約か行政処分かである。この点につき同判決は、法令の適用関係を詳細に検討した上で、非常勤職員の任用は私法上の雇用契約ではなく、公法上の任用行為であると判示し(争点@)、本件非常勤保育士の任用は、私法上の雇用契約とは解せない以上、私法上の雇用関係に適用される解雇法理ないし解雇権濫用法理の類推適用は認められず、原告らが再任を請求する権利は認められないとしたのである(争点A)。

 ただ、同判決は、「私法上の雇用契約の場合と、公法上の任用関係である場合とで、その実質面においては、多数回の更新の事実や、雇用継続の期待という点で差異がないにもかかわらず、労働者の側にとってその法的な扱いについて差が生じ、公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利となることは確かに不合理であるといえる。」との理解を示したが、「しかし、行政処分の画一性・形式性を定めた現在の関係法令を適用する限りは、……現行法上は、解雇権濫用法理を類推して、再任用を擬制する余地はない。」と判示した。仮に、裁判所が法令の根拠もなく再任用を請求する権利を認めることとなれば、裁判所が法創造を行うこととなり、三権分立の建前から、法解釈の限界を超えるものというほかはないとして、「反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即した法の整備が必要とされるところである。」との異例の言及をしたのである。

 また、同判決は、非常勤職員の任用が公法上の任用関係であり、期間が厳格に定められ再任用を請求する権利が発生する余地はなかったのであるから、将来疑義が生じないようにそのことを十分説明すべきであったこと、職務内容が常勤保育士と変わらず継続性があったことから任命権者側が継続を期待するような言動を示していたこと、多数回に及ぶ再任用がされ職務の継続が10年前後にも及んでいたこと、などから原告らが再任用を期待することは無理からぬ点があることなど、特別の事情があったと認められるとし、原告らの任用継続に対する期待は法的保護に値し、「実質的にみると雇止めに対する解雇権濫用法理を類推適用すべき程度にまで違法性が強い事情の下に」、期待権を侵害したとして損害賠償を認めたのである(争点B)。

  自治体における非常勤職員の法的性質については、なお検討の余地はあるにしても、同判決の論旨には首肯できる点が多い。非常勤職員の不安定雇用問題が長らく放置され、それが民間委託などの拡大に伴いさらに深刻化する状況にあり、他方非常勤職員問題に対する現行法制度による対応にも限界があるとすれば、判決が指摘するように何らかの法的整備は不可欠である。国による法整備をまつことなく、自治体の条例などによる対応の可能性も追求してみる必要もあろう。

さとう ひでたけ・早稲田大学法学学術院教授)

 

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