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2006年3月のコラム

1職員、 1NPO

 

 行政と市民、事業者との協働が言われて 10年。すっかり定着した感がある。しかし、NPOなどを「安上がりの下請け、委託先」とする考え方は行政側に根強い。たとえば、1月にまとめられた 大阪市市政改革本部の「マニフェスト」でも、「NPO等の活用」と財政再建の手段としてのみNPO を捉える傾向が強い。「活用」される側にとってはたまったものではない。これでは自立的市民組織をつぶすことにしかならない。

 このような行政の性向を正さないと、新しい市民社会は見えてこない。つまり、「市民との協働」で変わらなければならないのは、行政の側である。このことは何度言ってもいい過ぎることはない。このことはある程度意識されているので、ピラミッド型の縦割りの弊害を克服するために、ネットワーク型組織とかタスクフォース型作業組織の取り組みが行われ、また市民とのワークショップに事務局という形を越えて職員が参加し、議論するという取り組みも広がってきている。また、あるテーマに関心のある職員を庁内で公募することもかなり前から行われている。

 これらの取り組みも必要だ。しかし、行政の変化とは、一人ひとりの公務員の意識変化である。制度を変えても、それを担う個人の意識のありようが変わらなければ、元の木阿弥である。意識変化とは人と人が取り結ぶ関係の中での、「気づき」や「目からうろこ」の経験の蓄積から生まれる。つまり、公務員の生活を変える必要があるということになる。

 われわれが最近、そういった点から提案しているのは「1職員、1NPO」というスローガンである。全ての自治体職員は自発的になにか自立的に事業をしているNPOなどに参加すること。時間的に難しい場合でも(よくある言い訳だが)、市民組織に加入して資金面などで支えることは可能なはずだ。

 実情を見ると、NPOの活動を担っている地方公務員は多い。1割と言わないまでも、数パーセントの職員が市民組織で活動し、2足のわらじを履いている。このような2足わらじの公務員が、3割ぐらいになると、市民との関係で行政の風向きが変わるかもしれない。付き合ってみてわかることだが、NPOで活躍している公務員の見方は確かに違うのである。NPOの経営の難しさ、行政の理不尽さが骨身にしみている。そういった自治体職員が増えているようだ。一昔前だったら、このような自治体職員は、「自治研屋」と呼ばれたはずだ。堺市には2足わらじの職員を評価する人事政策を提案したこともある。

 例えば、奈良県東吉野村でこの1月に法人登記をした「東吉野村まちづくりNPO」。理事の半数は現役の役場職員で、実際の事業を担うのは、元役場の保健師でケアマネージャー。詳しくは月刊自治研 2006年1月号を見ていただきたい。11月末に集落のひとつでの「いきいきサロン」に参加したが、200円の参加費で平均75歳の集まりだった。

 また広島県職労が昨年7月に行った分権自治推進集会では、「NPOとつくる住民参加の社会」をテーマに、NPOと実行委員会をつくり、 17のNPOの参加を得てシンポジウムや交流会を行っ ている。助言者は関西福祉大学の坂本忠治先生だ。このように、労働組合とNPOとが交流を推進することも面白い。

 町村では地域社会との結びつきが強く、消防団員の中心となったり、大字の講や区会を担う例は多い。このことも重要だが、NPOのようなミッションのある組織の事業を主体的に担うことは、違った意味で行政を変える契機となる。

 たまたま同じ広島県だが、現役の県地域振興部の室長(総務省キャリア)が、同じことを言い、実践している(『創発まちづくり』学芸出版社)。「協働のスタイルとして意欲的な公務員が、その行政スキルを生かしつつ、一市民としてNPOに参加し、民間人とともに行動する『公務員参加型NPO』を提案したい。公務員が一市民と一体化して活動する、この形態は『官民融合型』の典型だと思う。」

 このような1職員、1NPOという組織原理によって、一時議論された公務員の三面性(公務員、労働者、市民)を活性化する条件は整ってきているといえる。

 

さわい まさる・奈良女子大学名誉教授 )


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